ゲーム開発者なら知っておきたい意思決定プロセスに関する心理学・脳科学用語
~ゲームの面白さとプレイヤーの「迷い」:心理学・脳科学から見るゲームデザイン~
ゲームの面白さの核の一つに選択と決断があります。しかし、その「迷い」や「悩み」が度を超すと、プレイヤー体験を損なう原因にもなりかねません。
本記事では、プレイヤーがゲーム内の選択肢で迷ったり、深く考えたりする現象を理解するために、開発者(企画・ゲームデザイナー)が知っておくべき心理学・脳科学の専門用語を解説します。
1. 意思決定のプロセスにおける基礎用語
プレイヤーが「選択する」行為全般を理解するための基本的な用語です。
🧠 認知負荷(Cognitive Load)
「情報処理や問題解決を行う際に、脳にかかる精神的な負担の量」を指します。
ゲームとの関係:
- 選択肢が多い、ルールの組み合わせが複雑といった状況で高まります。
- 適度な認知負荷は、プレイヤーに「考えている」というやりがいや達成感を与えます。
- 過度な認知負荷は、プレイヤーを疲れさせ、ゲームの難易度を不必要に上げる原因になります。
- ちなみに筆者が遊んだ中で最も認知負荷が高いと感じたゲームはLoLです。
⚙️ 意思決定疲れ(Decision Fatigue)
「短時間で何度も意思決定を行うことによって、脳のリソースが枯渇し、その後の判断力が低下する状態」を指します。
ゲームとの関係:
- RPGの大量のアイテム整理や、戦略ゲームでの連続した指示出しなどで発生しやすくなります。
- 疲労の結果、プレイヤーは「考えること」を避け、安易な選択をするようになり、ゲーム体験の質が低下します。
- 例:ローグライクで、序盤は慎重にアイテム選択を吟味していたが、だんだんと雑な選択をするようになる。
2. 「迷い」が行動を止める深刻な状態に関する用語
プレイヤーの「深く考える」という行為が、もはや行動を妨げてしまっている状態を指します。基本的には開発者が回避すべき状況です。
🛑 分析麻痺(Analysis Paralysis)
「情報が多すぎる、または選択肢が多すぎるために、分析や思考ばかりが進んでしまい、最終的な意思決定や行動に移れなくなってしまう状態」を指します。
ゲームでの具体例:
- 戦略ゲームで、最適な一手を探しすぎて制限時間内にアクションができない。
- RPGで、将来的に後悔しない最適ビルドを追求しすぎて、いつまでもスキルポイントを振れない。
開発における対策:
- 完璧を求めなくてもクリアできる「許容範囲」を作る。
- 選択の「やり直し」(リスペック)を可能にする。
- スキルポイントのリセットは低コストで何度でもできるようにする。
- 選択肢を一度にすべて見せず、段階的に提示する。
- 無駄な選択肢は削る。
- 巨大なだけで中身がない使いまわしだらけのスキルツリーは避ける。明らかな下位互換が無いように調整する。
⚖️ 選択のパラドックス(Paradox of Choice)
「選択肢の幅が広がることは一見良いことに見えるが、増えすぎるとかえって満足度が低下したり、意思決定が困難になったりする現象」を指します。
ゲームでの具体例:
- 巨大なスキルツリーを提示されてしまい、自分で考えるのをやめる。攻略サイトで最強ビルドだと紹介されているもののマネをする。
- 膨大な数のクラフト素材がインベントリを圧迫し、重要なアイテムを捨ててしまったり、レアなアイテムを拾っていることに気付かない。
開発における対策:
- 選択肢の数を絞る(マジックナンバーは3〜7個程度とされることが多い)。
- デフォルトの選択肢(プリセット)を用意し、詳細なカスタマイズは上級者に委ねる。
逆に認知負荷を「武器」にするデザイン戦略
前述したように、過剰な認知負荷は分析麻痺を引き起こし、プレイヤーの離脱につながるリスクがあります。しかし、あえて複雑性や情報の不足をデザインに組み込むことで、プレイヤーをコミュニティへと導き、ゲーム外での活動を活発化させる戦略が存在します。
筆者が過去にプレイした中でこの傾向が強く出ているのがLoLとタルコフです。
🌐 コミュニティ駆動型デザイン(Community-Driven Design)
この戦略では、意図的にゲーム内の情報伝達を不完全にし、プレイヤーが自ら解決策や最適解を見つけるための「空白」を作り出します。私たちは、これを採用するゲームの事を「認知負荷モデル」と呼んでいます。
① 不完全な情報(Incomplete Information)
戦略: ゲーム内で特定の情報(例:隠されたステータスの計算式、特殊なアイテムのドロップ率、スキルの真の効果)を意図的に曖昧にする、または隠す。
効果: プレイヤーは最適解を知るために、「実験」と「考察」を強いられます。この個人の努力だけでは時間がかかりすぎるため、自然と情報共有の場(掲示板、Wiki、攻略サイト、SNS、解説動画)を求めるようになります。
② 複雑すぎるシステム(Overly Complex Systems)
戦略: プレイヤーが直感的に理解できない、多数のパラメーターが複雑に絡み合ったシステムを導入する。
- 例:攻撃力UP、攻撃速度UP、クリティカルダメージUP、クリティカル率UP、防御無視などの中からどれを優先するかを選択させる。
効果:
- 情報の集約: 複雑なシステムを解明したプレイヤーが、その知識を「攻略情報」としてまとめて公開します。
- 格付け: 最適解や効率的な手順を考案・発見したプレイヤーが、コミュニティ内で地位を得る(ピア・リスペクト)。これにより、コミュニティへの貢献意欲が向上したり、情報提供のプラットフォームで広告収入を得たりします。
③ 「理論上の最大値」の追求(Pursuit of Theoretical Maximum)
戦略: 通常のプレイでは不要だが、理論上の最強を目指すマニアックなプレイヤー層に対して、計算の余地がある微細な調整要素を大量に提供する。
効果:
- コミュニティは、一般的な攻略情報だけでなく、数学的な検証やシミュレーションを行う専門的な議論の場へと進化します。
- 高い認知負荷が必要な分析は、コミュニティ内の特定のエキスパートに集約され、他の多くのプレイヤーはその情報を恩恵として受け取る構図が生まれます。
④ 情報の更新で活性化を催促する(Update)
戦略: バランス調整として各数値を適切に変更することで上記の③を再び発生させる。
効果: 比較的低コストでコミュニティの活性化の機会を与え、環境変化によってプレイ体験に新鮮味を与えることができます。
🚨 留意点:認知負荷モデルの危険性
この戦略を採用する場合、以下の点に注意が必要です。
- カジュアル層の切り捨て: 過剰な複雑さは、ライトユーザーや外部で情報収集をしないプレイヤーを早期に疲弊させ、離脱させるリスクがあります。
- ゲーム外の「作業化」: 情報収集や検証が「ゲームをプレイする目的」ではなく「ゲームをプレイするための必須の準備作業」になってしまうと、楽しさが損なわれます。
このモデルは、コアなプレイヤー層に深く長く遊んでもらいたい、コミュニティの熱量を重視したいタイトルで特に有効な手法です。
まとめ
プレイヤーに「迷い」を与えることは、ゲームへのエンゲージメント(没入感)を高める上で重要です。しかし、その迷いが「認知負荷」を高めすぎたり、プレイヤーを「分析麻痺」の状態に追い込んだりすると、ゲームモデルは一気に変化します。
ゲーム開発者は、ゲームの規模やコミュニティ構築のモデルを企画段階から意識するべきでしょう。そしてプレイヤーの思考のプロセスを理解し、認知負荷の量を適切に調整する必要があります。
あとがき
弊社PoisonGamesのPoisonはそのまま「毒」という意味ですが、ここで筆者が好きな言葉を一つ紹介します。
「万物は毒であり、毒でないものはない。あるものを無毒とするのは、その用量のみによってなのだ」
— パラケルスス (16世紀の医師・思想家)
この言葉は、現代の毒性学の基本であり、「毒と薬を区別するものは、その用量である」という考え方を示しています。
例えば、水や酸素は動物にとって必須なものですが、量を変更するだけで「水中毒」や「酸素中毒」といった症状が起こり、有毒となり得ます。
ゲームにおいてもあらゆる要素がこの毒になりえます。
「面白い」と信じて追加した要素でも用量を誤ると途端につまらないものになる事があります。その代表例として今回紹介した認知負荷は非常に扱いが難しい要素であると言えます。
最後に、ポイズンゲームスに興味を持っていただけた方は是非弊社のゲームを遊んでみてください。
また弊社は様々な視点からゲームを分析し言語化することを得意としています。
ゲーム企画のコンサルティングサービスも行っています。
興味がある方はお問い合わせフォームからお願いします。
*本記事や当ブログにて他社ゲームを批判する意図はありません。他社ゲームはそれぞれの権利者に帰属します。
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